―― 茜さんとの出会い ――
うわー。
施設の中は思いの外狭かった。そして、かなり近未来的というか・・・透明なカラーをテーマにしたとても綺麗な所だった。
壁は白、床は青色。病院をちょっとアレンジした感じだろうか。床がぴっかぴかである。
広さ的には想像より小さく、あれ? っと思う所があったが、この神秘的な美しさには感動するものがある。
私は緊張しながらも、きょろきょろと冷静に周りを見渡す。
施設内部では、白衣を着た男性や、メイドさんが何人か歩いてたり話してたり、私服の女性がコーヒーを飲んでいたりする。
その光景は日常とはかけ離れていて見慣れないものであり、若干の違和感を感じる。私はオドオドしながら、黒服の男性に言われたとおり、まずは受付の女性がいる所に歩み寄る。
「あ、あのー」
「萌子様ですね? 当施設へようこそいらっしゃいました」
私でも美人だと思うぐらいの受付のお姉さんが、私に声をかけてくる。
「まずはこちらに、萌子様の情報を記入してくださいませ、その間に係りの者をお呼びいたします」
と、受付テーブルに2枚の紙とボールペンを渡される。
「あ、はい」
少し慌てながら、紙に書かれた内容を確認する。どうやら個人情報を記載するものだ。
わ、私で間違いないよね!? 別の施設に入っちゃったとか、そういうのはないよね!? と、ちょっぴり不安を抱き抱えながらも、言われたとおり、紙に基本的な個人情報を記載する。
かきかきかき。
用紙に記述して提出した後、少し待ち時間があったので、吸水機から紙コップを取り出し、水を入れてゆっくりと飲み干す。
はむはむ。
紙コップをちょっと噛んでみる。つい紙コップを口に近づけるとこんな事をしてしまう。悪い癖だと思うのだけれどやっていて楽しい。
そんなことをしてのんびりと待っていると、さきほどの受付のお姉さんと、見知らぬ大人の女性のメイドさんがこちらの方にやって来た。
向こうの2人がお辞儀をしてきたので、私も椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
「初めまして、萌子ちゃん。私はお世話係の「茜」といいます。これからよろしくね」
こちらの人は、いきなりちゃん付けか・・・。といか、この施設の人は、みんな名前で呼ぶのだろうか?
「よ、よろしくお願いします」
挨拶をした後、メイドさんの方をこっそり観察する。こちらは受付の人ほど美人ではない・・・。いや隣の受付の女性がまぶしすぎるだけかもしれない。普通にスタイルのよい大人の女性である。
若干身長は高め、メイド姿がとても似合っている。素敵だ。これが噂の「萌え」なのだろうか?
そんな風にメイドさんを見ていると、受付のお姉さんが、私に話しかけてくる。
「萌子様はこれから新人部屋に移動されます。残りはお世話係の茜が、以降の行動すべき内容をご説明いたします。これからよろしくお願いします」
どうでも良いことを考えていた私は、慌てて対応する。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
私はもう一度お辞儀をする。メイドさんもお辞儀してる。
受付のお姉さんは私よりも礼儀正しくお辞儀をした後、元いた受付の場所に戻っていった。
「それでは、こちらに付いてきて下さいね~」
メイドさん・・・いや、茜さんと呼ぼう。常に名前で意識しないと忘れてしまう。
茜さんはそう述べると、くるっと後ろに向き歩き始めた。置いていかれないようにしなきゃっと、茜さんに連いていき、受付を後にする。
—
「いやー、つかれるわー。やっぱり自然体のままの方がいいよね? 萌子ちゃんもそう思わない?」
がびーん!
茜さんは、急にいつもの態度? みたいなものに切り替わった。は、早すぎる・・・。
「あ、は、はい・・・」
私は、もじもじと答える。すると、
「もう、かわいいんだからぁ~」
むぎゅ、唐突に体を捕まれて茜さんの元に引き寄せられる。私の顔が茜さんの胸の中に突っ込む。
ふぐぅ。ふぐぐぐぐっ!?
バタバタとしながら茜さんの胸の中で悶え苦しむ。そんな嫌がる私を見て、茜さんはすぐさま抱き締めを解除してくれる。
ぷはぁ・・・っ!
い、いきなりなにするんだー! び、びっくりしただろーっ! ・・・あ、でも気持ちよかったです。
「どぉ、少しは緊張がほぐれた?」
「あ・・・は、はい!」
「初めてだから、そりゃー緊張しちゃうよね。今ので少しでも解消されたのなら、嬉しいのだけれどね。・・・さぁ、こっちよ~」
茜さんは私にウインクを送った後、床式エスカレーターに乗ってスィーーと先に進む。あ、待ってぇ。
私は、茜さんの抱き締めがまだ忘れられず、ほんのりいい気分になりながら、茜さんに付いていく。
・・・。
茜さんと軽く話をしながら、エスカレーターで移動する。
茜さんはとても気軽で話しやすい感じの良い人だった。私はあっさりと打ち解けて、茜さんに色々と話していく。
「萌子ちゃん、少し質問してもいいかしら?」
「はい、どうぞ!」
「どうして、この施設にきたのかしら?」
「え? んーと・・・色々です。お金がほしいからとか、女子力アップとか、それと・・・」
「それと・・・?」
私は少し顔を赤くする。茜さんにだけ聞こえるようにぼそっという。
「安心できるエッチで、気持ちよくなれるとか・・・」
おおっ! と茜さんが驚く。やはり言うべきでなかったかなぁ・・・と少し後悔する。
「や、やっぱりそれっておかしい・・・ですよね?」
「そんなことないわよー。ここのエッチ、すごく楽しいわよ~」
茜さんは嬉しそうな笑顔で私に答えてくれる。
あ、やっぱりエッチな施設だけあって、そう言うことは普通に会話しても問題ないのかな?
「そうかー、萌子ちゃん、エッチを楽しみにここに来たのかー」
「そそそそ、それは違いますぅ!」
あわてて訂正を求める。
「そうかー、萌子ちゃん、エッチな子だったんだー」
「違いますってばぁーーー! もぉー」
私はしっかり否定する。む、この人、妙に人をからかう癖があるんだな。注意しなきゃ!
でも、なんだかんだで茜さんと会話するのが楽しい。さっき、お世話係と言ってたけど、この人となら、うまくやっていけるかもしれない。
会話を楽しく弾ませながら、私達は目的地まで移動した。
—
そんなこんなで、目的地の新人部屋に到着する。
部屋に入る。辺りを見回す。
その部屋は至ってシンプルというか・・・。そう、ビジネスホテルの一室っといった感じだった。誰かが生活していた様子はない。
「えーと・・・ここが私の住む部屋ですか?」
説明資料によると、確か、住み込みでお仕事する人は、専用のお部屋が用意されると書かれた事を思い出す。
「いや、ここは違うわ。ただの待機室よ」
あらっ。違うのか。
「今日だけここで過ごしてもらうわ。後日、萌子ちゃん専用の部屋を紹介してあげるからね」
おお、私専用か! ちょっと楽しみだ!
「それでね、萌子ちゃん・・・」
茜さんが急に真面目な態度になる。
い、いったいなんだろうか?
「改めて言うわよ。これから萌子ちゃんは、ここで、色々とエッチな器具の実験をさせられちゃう、テスターのお仕事をすることになるわ。
体に異常をきたすようなことはしないけど、長く働いていると、とってもエッチな子になっちゃうわよ。それでも本当に構わない?」
・・・うっ、そう言われると、ちょっと怖い。で、でも、書類を読んで覚悟を決めた上での同意だ。
「は、はい。同意の上です! 私・・・頑張ります!」
実は心の奥底では、エッチもいいかな、なんて思ったりもしている。ただ、理想の彼氏とイチャイチャできるならそれが一番いいんだけどね。
まぁエッチな体になっちゃったら、それはそれでいいのかな? そうなると、私のびぼーと体で、男なんてイ・チ・コ・ロ。なのかもしれない。ぐふっ。ぐふふふふふっ。
茜さんは一端目をつぶってから私の返答を聞いた後、まぶたをあけて、私の瞳をじっくりと見据えながら、しっかりとした口調で話す。
「わかったわ。それじゃあ、これからよろしくね」
「はい。私の方こそ、よろしくお願いします」
私も丁寧に返す。これから私のエッチな生活が始まっちゃうんだー。やばい、少し興奮してきた。
自分の顔が少し、ぽっ。っと赤くなる。
楽しい生活が送れるといいな~。
—
「それでね・・・少し測定いいかしら?」
茜さんは、長さを測定できるタイプの円型の測定器具を取り出す。
およっ? 身長でも測るのかな。
「まずは、首ね」
茜さんが私の首に測定器具を巻き付ける。
何で首!? 普通、バストとかだろ!
「次は、腕」
茜さんが私の腕をめくり、測定器具を巻き付ける。
何で腕!? 普通、ウエストとかだろ!
「最後は、頭」
茜さんが私の髪を分け、測定器具を巻き付ける。
何で頭!? 普通、ヒップとかだろ!
・・・まるでわけがわからない。まぁ何かのデータで必要なのだろう。
「ふむ。ふむふむ。・・・私はこれから2時間後ぐらい退出するから、萌子ちゃんは持参した夕食を食べてからお風呂を済ませた後、ゆっくり部屋で待っていてね~。そうそう、下着はお風呂場に置いてあるから着替えておいてね」
「は、はぁ・・・」
「それじゃーね、萌子ちゃん」
パタン。ガチャリ。
茜さんがそう言い残し、パタパタと歩いて部屋から出て行った。
・・・えーと。
と、とりあえず、言われた通りにしようかな。まずは少し早めの夕食っと。
私は、部屋の端に置いといた自分のカバンから、コンビニで買っておいたおにぎりを取り出す。