第六話
「ぅ……ぅっ…ちょ…っと……出し、過ぎ……よ」
天使や悪魔の設定を忘れて、電波少女が素に戻ったような声音でつぶやく。
しかし存分に中出しを決めた満足感のまま、僕はしばらく電波少女を抱き締めていた。
空が明るくなって来ていた。
僕たちは中出しの姿勢のまま、軽トラの荷台の上にいた。
「悪魔って設定、すごく良かったわ。ちょっと癖になっちゃいそう」
「いつもこんなことをしてるのかい?」
「そうよ。
私は天に見放された堕天使で、それを可哀想に思った男の人に慰められ、セックスするの。
下心のある男の人って、私の妄想話にすぐに乗っかってくるのね。
可哀想な天使だなって髪を撫でて、抱き締めて。そして唇を奪って胸を揉んで、お股を擦って、エッチして、そしてみんな中出ししようとするの。
でもあなたはちょっと違ったわ、まさか悪魔役を買って出ててくれて陵辱プレイだなんて。全部アドリブ、よね?」
「そりゃあ勿論さ。
前もって天使とセックスする話を準備していたりなんかしないよ」
「気に入ったわ。
連絡先を教えて。また会いましょう」
「それは恋人として?」
太陽の光に照らし出された電波少女は、思っていたよりもずっと可愛い顔をしていた。
天使や悪魔と囁きながらセックスした少し前の時間が、まるっきり嘘のように思えるほど現実味のない美少女だった。
「いいえ、セックスフレンドって奴ね。
ね、あのパッシングってどんな意味だったの?
オ・イ・デ・オ・イ・デって意味ではなかったんでしょ」
「あぁそれはね……意味は……そうだな、君みたいな可愛い女の子とセックスがしたいよって意味だったんだよ」
「本当?」
「本当」
すると電波少女は無邪気に微笑んだ。
「それが本当なら、私は私の妄想話にあなたを乗っけたつもりだったけれど、実際は逆の立場だったってことでしょ?
信じられない……でも、面白いからそれでいいわ」
朝日のおかげだろうか、電波少女の表情はなにか吹っ切れたように清々しく感じる。
「この軽トラック、動くんでしょ? 家まで送ってよ」
「良いけど……家の人、驚くんじゃないか?」
「いいの、驚かせてやるの」
そんな話の流れで助手席に電波少女を乗せ、僕は軽トラックを彼女の家へと走らせる。
「私の両親はね、すっごく過保護な人たちで……悪い人たちじゃないんだけど、あんまり外で遊んだり、友達と遊んだりさせてくれなかったの。
だから妄想を楽しむのが趣味になっちゃったのよ、きっと。
反抗期よろしく深夜徘徊して、私の妄想に巻き込む形で誰かとセックスしてても、それは一人遊びと変わらなかったと思うの。
そういうわけだから、私、あなたに感謝してるのよ。
世界が広がった気がするわ。
軽トラックに乗ったのも初めてだし」
「それじゃあそのお礼に一つ、僕の相談に乗ってくれないかな?」
「……相談? なぁに?」
「実は今日、この軽トラックを廃車にするかどうか決めなくちゃならないんだ。
正直、どうしようか迷っててね」
「……私が決めていいの?」
「いいよ」
電波少女はおもむろにダッシュボードに手を触れたくらいで、しばらくじっと考える様子を見せた。
そうしてから悪戯な子供のような顔で言うのだ。
「今度、この車に乗ってラブホテルに行きましょう、セックスフレンドの王子様」
終わり