製品版クリアしたので追記有り
未来ラジオと人工鳩
有線通信の全てを廃し、代わりに一挙に通信インフラを賄っていたのは人工の鳩。
空には無線通信を引き受けた人工鳩が無数に飛び交う2061年の世界。
しかし人工鳩は突如として暴走を始め、電波を喰うようになってしまった。以前と変わらずにただただ空を飛んでいる鳩の群れではあったが、もはや世界の無線通信は全て人工鳩に喰われてしまい、無線通信は全てが遮断。飛行機を飛ばすことも、無論適わなくなってしまっていた。
人類は自らが造り出した人工鳩によって「空」を失い、通信網に代表される人と人との「繋がり」も失ってしまっていた。
人工鳩が暴走を引き起こしたその日、空を飛んでいた飛行機は次々に墜落してしまった。
その大事故の生き残りである青年は、人類に「空」と「繋がり」を取り戻すために人工鳩に電波を喰われないように工夫した『ラジオ』を制作し、飛行機事故の遺族関係者に配って回ったのだった。
毎日20時にラジオ放送を始めた青年だったが、すぐにある不思議な現象に遭遇する。
彼が制作した『ラジオ』は日付が切り替わる深夜0時になると、未来の放送を受信するのだった。
そして未来のラジオ放送によって、青年がまもなく『オオゾラ』の落下事故で死亡することが告げられるのだった――
人工鳩が飛ぶ空をどう眺めるのか
はい、今回は突然に商業作品の体験版ですね。
「空を飛んでる大量の人工鳩」という現代ファンタジーな設定に惹かれてプレイですね、思いっきり未来設定なんですが。
で、舞台は2061年の未来の日本。
空を見上げればどこもかしこも大量の鳩が飛んでいるという光景は奇妙かもしれないんだけど、青空と白い鳩のコントラストは清澄な感じだし、大空を鳥が舞っている様子は清々しい。鳩ぽっぽと言えば平和の象徴だし、これといって悪い気はしないんだけれども……
これらの鳩は人工の鳩。
『第七世代移動通信システム用自生インフラストラクチャー』という正式名称があったりですが、ともかくも地球から電波的な圏外を無くすために空を飛び回って電波を中継して回ってくれるアンテナの役目を果たしてくれてます。
この人工鳩の活躍によって既存の有線通信は完全に廃れて失われてしまい、すでに世界が人工鳩に依存したネットワーク体勢であった状態で人工鳩が暴走してしまったことで世界の情報網は遮断されてしまったという世界設定です。
人工鳩の暴走によって多くの被害が発生し、人々は人工鳩へ憎しみを抱きつつ空を見上げる状況なのでした。
……正直なところ電波の圏外を無くす方法として人工鳩を飛ばす方法が理に適っているかというと疑問だったり、中継アンテナの人工鳩が暴走した時の対処方法については理系の人はあれこれ思い浮かぶんじゃないかなぁと思うし、いくらなんでもインフラを人工鳩に依存するなんてことは有り得ないような気がしなくもない。
たぶんこの世界設定についてはツッコミ所がいくつもあると思うんだけど、ゲームの中の話だと割り切るのが一番だし、伝書鳩によって繋がっていた世界で伝書鳩が反乱を起こしたような状況なのだと思ってあげれば詩的な世界観にも思えなくもなさそう。
実際に人工鳩は生身の鳩のように飛び回り、そして自らで数を増やしているのだそうな。見た目的にも普通の鳩とほぼほぼ変わらないのだから人工物・機械であるという感触はずいぶんと薄められてます。ちゃんと鳴きます、ハトポッポー。
下手な鉄砲だったとしても数撃たなくても当たりそうなくらいに鳩が飛び交う空の下、主人公さんは暴走した人工鳩によってバードストライクを起こして墜落した飛行機に乗っていた中の唯一の生存者であり、この事故によって両親を失っています。
その墜落事故から15年、主人公さんは実家が元電器屋だった友人から部品を頂戴してラジオを作成。
ラジオ電波には人工鳩に電波喰いをされない工夫を施しており、それを事故15年目の命日に墜落現場を訪れた遺族関係者に配ってまわり、そしてその日から毎日午後20時になると主人公さんはラジオ放送を始めるのでした。
雄弁多弁の主人公さんではないけれど、なんとか訥々とラジオ電波に言葉を乗っけます。
人工鳩の暴走によって失われてしまった「空」と「繋がり」を取り戻すために憎っくき人工鳩を消し去りたいのだと。
ラジオを視聴するヒロイン達のCGが挿入されてゆき、まずは「繋がり」を取り戻す第一歩が踏み出されたのだと物語の幕開けを感じさせてくれます。
空間的な広がりを感じさせる美麗なCG群と、決意を持って悲劇から立ち上がる若者の姿に心を打たれそうになるわけですが、孤独の縁からラジオ放送で訴えるというシチュエーションは他作品でも使われているので、さらに設定を盛っていきます。
初回放送の後、主人公さんが知らないところで『2回目の放送』が行われていたことが発覚。
人工鳩がパタパタしている現状ではラジオ放送すらほぼ不可能という中で主人公さん以外にラジオ放送を行っている者がいるのかと言えば、それは考えるに難しく、また『2回目の放送』の声の主は紛れもなく主人公さんだったというのです。
……なにそれ怖い。
ラジオ視聴者から情報を集めた結果、その不可解な放送がされていたのは日付が切り替わる深夜0時から1分の間。
主人公さんはさっそく深夜0時にラジオ放送に耳を傾けます。
すると聞こえてきたのは……
主人公さんの死亡を告げるラジオ放送。
スクショのテキストが素晴らしく読みづらいんですが、主人公さんが死んだよーって内容が語られているラジオ放送です。
曰く、『オオゾラ』が落下してきた事故によって主人公さんは死んでしまったのだとか。放送の声の主などからも勘案して、どうやら深夜0時のラジオ放送は、主人公さん達がこれから数日先の未来で放送することになるはずの内容であると、つまり未来ラジオであると結論づけられるのでした。
そしてその意味で未来ラジオによって主人公さんは死亡宣告をされた状態。
『オオゾラ』が落下してきたということだけど、『オオゾラ』とはなんぞや?と。
まさか空がそのまま落ちてきたわけでもあるまいに。
結論から言ってまえば、『オオゾラ』とは宇宙探査機。
人工鳩によって無線を殺された現状では、宇宙探査機の軌道修正通信を行うことができないので『オオゾラ』が墜ちてきてしまうというのです、それも主人公さん上に。
なので主人公さんの死亡回避のために人工鳩を撃ち落とすべく対策を練ります。
無敵設定のように語られていた人工鳩さんですが、なんでもここ最近は人工鳩の死骸が見付けられるようになったのだとか。
それもちょうど、主人公さん達がラジオ放送を始めた日からということが明らかになります。
まさかのまさかで主人公さん達のラジオ放送が人工鳩を撃ち落とす効果があるというのです。
奇天烈なラジオ放送内容だから人工鳩が臨終するってことではなくて、人工鳩の電波喰い対策を付与した電波を人工鳩に流すと墜落するらしいです。
ちょっと都合が良すぎるように感じますが、主人公さんが作成したラジオに組み込まれている人工鳩対策モジュールは、人工鳩を開発し暴走させた研究者(今やテロリスト)自らが作ったというのです。
なぜ人工鳩を暴走させなければならなかったのか、そしてなぜ人工鳩の対策モジュールを自ら作ってるのか、意図の読めない研究者の存在によって鳩を撃ち落とすラジオの都合の良さが逆に不気味に思える塩梅。
あらすじだけ抜き出すとご都合主義に映りそうだけど、見せ方でずいぶん緩和してくれてるね。
ともあれ、主人公さんの命を救うためにラジオを大量に制作して、それを広範囲に配布させてラジオ放送を行い、人工鳩を殺害する計画が実行されるのでした。
人工鳩を殺してしまえば、宇宙探査機『オオゾラ』の軌道修正を行うことができるので主人公さんの死亡回避に繋がるというものですね。
未来ラジオで落下地点で示されているので、その場に居なければ死亡回避することも可能っちゃ可能ではあるんだろうけれど、宇宙探査機『オオゾラ』の落下地点が飛行機墜落事故が起こった場所ということで、遺族関係者の集まりである主人公さんグループとしては事故現場を穢すことを良しとせぬわけで、『オオゾラ』の落下回避を目指します。
宇宙探査機『オオゾラ』の落下想定地点は空港の第一ターミナル。
15年前に墜落した事故機共々そのまま放置されたそこは、一種の追悼モニュメントの様。
深夜にそこに忍び込むと墜落事故の張本人たる人工鳩が事故機に群がっているのだから、事故で両親を失った主人公さんは怒りを覚え、憎しみを再認識するのですが、そんな場所で出会ったのが本作のメインヒロイン。
人工鳩を憎む主人公さん達に対して、全く対照的に人工鳩を好きだと語る少女。
事故現場で一人で暮らしているという少女は浮き世離れした独特の雰囲気。
無垢な顔して『人工鳩が飛ぶこの空を、笑って見上げて欲しい』とか言われてしまうと、自らの延命のためにも人工鳩をぶっ殺すつもりでいた主人公さんは言葉を失ってしまいますねん。
人工鳩に対して全く対照的な見解を持っている二人の邂逅によって、さてさて物語がどう動いていくのか。
この少女が人工鳩開発を行い、また暴走させた研究者の一人娘であるという設定も加わります。
キャッキャウフフと毎夜楽しくラジオ放送が行われることで墜落していく人工鳩。
人工鳩の弔いのお墓を、飛行墜落事故があった第一ターミナル内に掘っているという少女。
さらに人工鳩を殺せば殺すほどに少女が衰弱していくというのだから、その事実を前に楽しくラジオ放送を行うのは狂気。
さぁさ、どういう結論に至るのかなぁ~と、それは製品版でのお楽しみなのかと思ってたけど、宇宙探査機『オオゾラ』が墜落してくるのかどうか、そして死亡宣告されていた主人公さんがどうなるのかどうか――その点についても体験版でしっかり語られてます。
『オオゾラ』の墜落云々を語ってしまったら物語の大筋が明るみになっちゃうんじゃないかと思われそうですが、全然序章だったことが明らかになって体験版は幕閉じで。
冒頭に分かりやすく転がされていた伏線が動き出してくれたことで、一気に混沌と化したところで製品版へ、って引き方なので……これは悶えるなぁ。
6月29日に発売予定だったけど、8月31日に延期されてますー。
ぬーん
まとめ・感想
部分部分で設定や展開を取り上げるとご都合主義に映りそうなところがあるんだけど、次々に新しい情報を追加していくテンポの良さや演出の良さがあって、流れの中ではほとんど気にならなかったです。
体験版中では主人公さんが飛行機事故現場で出会った少女に惚れる描写があることはあるんだけど、案外あっさりしていて伝わってこない感じ。まだ序盤だし、エロゲーとして他にもヒロインがいるんだし、意図的にあっさり風味なのかもしれない。
人工鳩を憎む主人公さんと、人工鳩を愛する少女の対照的にして、実はそんなに対照的じゃない二人。世のため人のためと善意を振りかざしたものの、独善性を示されて立ち止まって悶えて葛藤する姿は、なんとも思春期の少年少女っぽさがあって良いですね。
やけくそとばかりに『童貞』弄りに拍車を掛けてるギャグパートが頭可笑しくて楽しいです。
……そうな、全ヒロインに対してチンピクしないのがネックだけど、シナリオゲーとして楽しみたい感じで。
製品版クリア
ということで製品版もクリア!
真面目なシナリオゲーでしたね。
ストーリーのテーマに沿って人工鳩のネットワークになぞらえられているものを理解した時、電波食いしちゃって迷惑極まりない人工鳩が大量に舞っている空に対しての印象がガラッと変わって、なんとも清々しくて素敵な出来映え。
世界レベルで影響している人工鳩に関連する事柄や人物が丁度良く主人公さん周辺に配置されてたりして、ご近所レベルの舞台の広さしか無いあたりに都合の良さを感じなくもないですが、無駄に全国行脚してスケールを広げようとして背景がスカスカになるくらいなら箱庭的に閉じた世界の方が良いしね。それに「こういう世界」があるからこそ、というわけですし(意味深)。
墜落した航空機を擁する廃空港がメインの舞台ってことで、個人的には『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』みたいな退廃的な雰囲気にどっぷり浸かれるのを期待してた。けど、有能主人公さんがいろいろ力業で解決していく系だった。
萌え要素やギャグ要素は体験版の時と同じく少なめ。
エロは各ヒロイン2回くらいづつで、本編クリア後におまけで1名。
プレイ時間は計ってなかったけど、そんなにボリュームがある方では無いです。