第一話 土下座してでも恋人に露出プレイをさせたいんだっ!
「この通りだ、この通りだからっ!」
「イヤっ! 絶対にイヤだからねっ!」
俺は床に額を押しつけての土下座をしたまま、彼女の気持ちが露出プレイに向かうことを祈っていた。
「イヤだからね! 絶対にイヤだからねっっ!」
「……そこを……なんとか……!」
「無理っ! 無理なものは無理っ!
どうしてもって言うなら、もう……別れるっ」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……ずっと土下座してても無駄だからね!」
彼女は踵を返し、立ち去ってしまった。
俺は諦めて頭を上げる。
部屋の奥を覗くと、彼女が飼い猫を抱えながらにしてこちらをこっそり伺っている。
目にはうっすらと涙が浮かんでいるようだ。
……泣きたいのはこっちだ。
どうして露出プレイを拒むのだ?
「キー君は、あたしの裸をほかの人に見られても平気なの?
露出プレイってそういうこともあり得るんだよね?
深夜の公園を裸で散策しろって……簡単に言うけど、絶対に誰にも見られない保証はないんだよ?」
萌衣(めい)が追撃を放ってくる。
露出プレイが好き嫌いの個人的性癖はまず置いておいて、俺が恋人である萌衣をどれだけ大事に思っているのか、大事にしているなら人前で裸体を晒すようなことはさせないよね? そうだよね? 当然だよね? 私のこと、大事だよね? 好きだよね?
――そういうニュアンスで攻められると辛い。
萌衣との関係は小学校六年生の頃まで遡る。
卒業を間近に控えた二月のくそ寒い放課後に「アルバムの件で相談があるから」と呼び出された。
アルバムと言えば卒業アルバムと早とちりした俺だったが、正確には色恋沙汰にご執心な女子達が背中を押しまくって萌衣に告白を迫っていたのだ。
アルバム=メモリー=思い出=思い出作りと都合良く解釈したクラスメイトがおもしろ半分に内気な萌衣に破れかぶれの告白を強要したのが実際のところで、萌衣からしたら堪ったもんじゃなかったろうに。
ニヤニヤした顔が憎たらしいクラスメイトが遠くから見守っているなか、寒さと緊張と、そして羞恥心に震える萌衣の姿は、なかなかどうしてめちゃくちゃ可愛かった。
惚れた(*^_^*)
そうして付き合い始めた俺たちで、俺は事あるごとにちょいちょい萌衣をイジめた。
たとえば一緒に服を買いに行った時には肌露出の多い服を選んで試着させてやったり(しぶしぶ試着はしてくれるけど、一着たりとも俺の選んだ服を買ってくれたことはない)。 たとえばキスの予感を昂ぶらせて萌衣が目をつむった状態で放置プレイしてみたり(殴られた)。
その都度その都度、萌衣の反応は良好だった。
あれ?
と感じ出したのは高校二年の夏休み前、海に行くので水着を新調したいという萌衣の買い物に付き合って、相変わらず俺は露骨に布地の少ない水着を試着室の萌衣に手渡した。
「……もう……キー君はこういうの好きだよね」
……例年だったら嫌々と駄々こねて試着させるまで骨を折るのだったが、あっさりと露出水着を着こなした萌衣。
試着室のカーテンをちょいと開けて、「ね、見てみて」とその隙間から覗かせてくれたものだったけれど、う~ん、違うんだよ。
萌衣がきわどい水着を着ている姿を見たいんじゃなくて、萌衣がきわどい水着を着て恥ずかしがってる姿が見たいの。
「ね、見てみて」とか言われると萎えるんだよな
「……これは違うと思う」
正直に本音を答えた俺の言葉を、果たして萌衣は都合良く解釈したのだろう。「キー君は私の肌を他の人達にあまり見られたくないんだ」とかなんとか。
高校二年の夏、青春まっただ中のカップルをして、なぜかビーチパラソルの下、萌衣は水着の上に一枚引っかけて肌を隠しまくった状態で体を寄せてくる。
俺は全力で地平線を眺めていた。
そうしていくうちに俺と萌衣は同棲するようになり、俺は土下座するようになった。
「お願いだ、露出プレイをやってくれないかっ!」
「ろ……露出プレイって何?」
「たとえば深夜の公園を裸で散策してくれたりすれば……!」
突然の土下座からの要求に、気の弱い萌衣は少し脅えていた。
「……そ……そんなことをしてどうなるの?
……キー君も裸で一緒に歩くの?」
「俺はこっそり萌衣の様子を観察してる……!」
「い……意味がわからないよっ!?」
わからなくても良いから全裸で歩け! と土下座したまま叫びたかったけれど、やめた。
初めてのエッチの時、萌衣の下着を脱がせる瞬間、他の野郎共だったらば「やったー!大好きな彼女のまんこだ!万歳っ!」と心ときめかせるだろうけれど、俺はまんこよりも萌衣の恥ずかしがる表情をつぶさに観察していた。
挿入の瞬間。
破瓜の瞬間。
絶頂の瞬間。
中出しの瞬間。
絵になるだろうそれらの瞬間の少し後、遅れて訪れる萌衣の微妙に恥ずかしがる表情、俺にはそのどれもが記憶に鮮明だ。
それが今はどうだ、下着脱がせて己の恥部が晒されたとしても恥じらいの一つ無い。
あれだ→「キー君になら裸を見られても良いの」
……そういうのいらねぇんだよ!?
「あたしね、キー君に飽きられたくないから、いろいろ頑張ったよね?
……ほら、アソコの毛を剃ってみたりもしたじゃない……」
……あぁ、あったな剃毛プレイ。
「キー君はこういうのが好きなんだね……」って、いらない人の秘密を見つけました感と、あなたにロリコンの気があっても私は理解を示すわ感をにじませた表情。
違うんだよなぁ……パイパンにされて恥ずかしいですって表情を見せて欲しかったんだよ……
ならば中途半端に伸びた陰毛をいたずらしたら恥ずかしがるんじゃないかと思ったんだけど、以降、萌衣はずっとパイパンを保ち続けているし、陰毛のお手入れで手抜かりがあったことは一度も無い。
触り心地最高のパイパンっぷり。
この際だから毎朝のひげ剃りを頼んだら良い仕事をしそうなくらいなんだわ。
「ねぇ……キー君が次から次へといろんなプレイを要求してくるってことは……あたしに飽きてしまってるってことだよね……。
付き合いだして長いし、こうして同棲して、もしかして結婚したりしたらあたしたちの付き合いはもっともっと長くなるんだよ?
それなのにキー君はあたしのこと飽き飽きしてる……。
……もうあたし達終わりな――」
「違うっっ!」
喰い気味に叫んだ。
「俺は萌衣の恥ずかしがったりする表情が好きなんだ!
飽き飽きしてる?
馬鹿言うなよ! むしろ逆だよっ!?
最近、これといって萌衣の恥ずかしがるところを見れていなくて焦がれてるの!
それで考えたんだよ、どうやったら萌衣に恥ずかしがってもらえるかって。
その答えが深夜の公園露出なの、OK?」
「………………」
「返事がないけど、OK?」
萌衣は左右に首を振る。
そりゃそうだ。
「……全然OKじゃない。
全然OKじゃないけど、キー君があたしに飽きたわけじゃないってことがわかって、そのことだけは良かったよ、嬉しいっ!」
そうして顔を赤らめる萌衣。
……いや、このパターンは想定してなかったけど、萌衣の恥ずかしがり顔が見れたっ!
「で、公園露出なんだけど……」
「絶対イヤ」
第一話 土下座してでも恋人に露出プレイをさせたいんだっ! ここまで