第三話 少女との旅の終わりに
軽トラックの旅は遂に名古屋入りを果たした。
一通り観光して回った後、名古屋港周辺の工場夜景をドライブしながら眺めていると、軽トラック少女は唐突にこう切り出した。
「女三界に家なし、とは言うものの、お前さんには帰るところがあろう。
そろそろ旅も終わりに近づいてきたのではないか?」
僕はちらりと軽トラック少女を見遣っただけにした。
「それとも、まだ女が恋しくならないのかや?
お前さんがあたしに手を出さんのは、どうしてなんよ、聞かせておくれ」
ギアが三速までしかないので暇をしている僕の左手を、軽トラック少女がそっと取り上げる。
自分の胸の方へと持っていき、ナース服の上からほどよい大きさの乳房に触れさせる。
「毎夜毎晩夜伽の相手をするつもりでいた女を、どれだけ焦らせば気が済むというのじゃ? なんぞあたしでは不満かえ?」
「……本音を言えば、僕だって我慢が辛いさ。
お前と旅を始める前までは、一日で二人の女の子を相手にしてたんだ。それが急に五日間も禁欲したんじゃ辛くないわけがないさ。
本当ならラブホに直行したいよ」
「ならば何故そうせぬ。
あたしの正体が機械なのが気に入らぬか?」
おっと、別れ話っぽくなってきた。
話が拗れないように、僕は要点を一つに絞って軽トラック少女に訊く。
「時々、お前はお腹をさする素振りを見せるけれど、それはどうしてなんだ?
もしかして……お腹の中に子供がいるんじゃないのか?」
「まさかお前さん、あたしが妊婦と疑っておったのか?」
意外だったとばかりに軽トラック少女はケラケラと笑い出した。ひとしきり笑った後、目尻の涙を拭いながら軽トラック少女は言う。
「いやいや、笑って済まなかった。
しかしあたしが妊娠とな。それは考えすぎじゃ。考えすぎだが……そうな、当たらずといえども遠からず、じゃな」
「またそれか」
「ふふふ、そう怒るでない。
神に誓ってもいい、あたしの腹には子はおらぬ。信じて欲しい。
だが、あたしが授かり子を抱えていると思い、心配してくれた心を本当に嬉しく思う。訳あって事情の全てを明かすことはできんでおるが、やはりあたしが惚れた男よ、お前さんになら全てを話しても良かったかもしれんな」
「だったら――っ」
「だったら……やはり帰ろう。
帰り着いた頃にはどうせ種が明かされる、ならばその時まで秘密を抱えさせておくれ。
秘密は女を美しくするとかなんとか、や」
どこぞの漫画の台詞を持ってこられて、一気に気が抜ける思いだった。
「ともかくもお前さん、あたしを抱くのに何の遠慮もいらぬことは約束する。
あたしもお前さんに抱かれたくて化けた姿身よ、これ以上は焦らすでない」
「じゃあ……ホテルに」
「それも構わぬが、あたしはあれに乗ってみたいと思うのじゃが?」
遊園地で次に乗りたいアトラクションを示すように、軽トラック少女が窓の外を指さした。
そこには名古屋港に停泊するフェリーの船体があるのだった。
つづく