第7話 二人の絶頂を糧に高見を目指す官能小説家
○オナニーは愛する人の息遣いと共に
「ふはぁっ! はあぁっ! 吾朗ちゃんっ、イク……いくよぉっ、せえのぉっ!」
吾朗と交わした一方的な約束どおりに、涼花は声を張り上げていた。
喉がかすれるほど声帯を震わせて、エクスタシーの頂点を知らせようと。
「はあぁっ! 涼花ぁ! 俺もぉっ、せえのだ!」
その合言葉を受けて、向き合う吾朗も絶叫する。
野太い声で愛する人の名を呼ぶと、指の輪っかに力を込めた。
「いぃ、イクゥッ! イク、イク……涼花ぁ、飛んじゃうぅぅっっ!!」
「ンハッ! で、出る……!」
宙に浮いた白い下半身が、グラグラと揺らいだ。
太腿の筋肉が固く緊張している。
その付け根で、左右にぱっくりと開いた紅い亀裂を指のペニスが貫いていた。
ジュブ、ジュニュとハシタナイ肉音を響かせ、膣奥を目指して最後の一突きを放った。
「はあぁ、熱いよ……吾朗ちゃんの精液、とっても……んふぅ、ヤケドしそう……」
膨張した肉の切っ先から、白い液体が飛んだ。
腰をめいっぱいに反らせた吾朗の股間から、幾筋もの男の体液が噴射される。
涼花の汗ばむ首筋に、赤らんだ乳房の肌に、キュートなへその窪みに、慎ましい陰毛と、その真下でトロトロに溶かされた恥肉の刻みに……
赤ちゃんの卵がキーワードの液体が降りかかる。
絶頂を迎えて、小刻みな痙攣を披露する女体に男のエキスを染み込ませていた。
涼花と吾朗のオナニー饗宴は、肝心の小説の中でどう描かれたのか?
淫らな饗宴の最中に消えたりょうかは、果たして心地よい絶頂感に浸れたのであろうか?
「ねえ、ねぇ、吾朗ちゃん。あのさぁ、小説のことなんだけど……」
涼花はオズオズといった風に、吾朗に訊いた。
「いやぁ、我ながら力作だと思うよ、アレは」
その言葉を待っていましたとばかりに、吾朗が目を輝かせて答えてくれた。
「そ、そう……なんだ。エッチな小説に仕上がったってことだよね」
つい数時間前、眩しい陽の光を遮断してまで薄闇に仕立てたのに、今はカーテンを開け放っても真の夕闇が迫りつつある。
そんな暗いオレンジ色の空間で、涼花はホッと息を吐き出した。
安堵の気持ちと、やり切れない恥じらい。
それをミックスさせた複雑な感情を見せながら、ベッドから降り立った。
「ちょっとシャワーを浴びてくるわね。吾朗ちゃん、夕食は有り合わせのものでいいかな?」
均整の取れた白い裸体が不意に立ち止まる。
なだらかな曲線を描いて盛り上がるヒップと、手書きのような柔らかさを滲ませた背中のライン。
吾朗の目が追いかけているのを知ってか知らずか、涼花は腰を捻ってその二つを消した。
代わりにとでも言うように、ツンと上向く双乳をプルルと弾ませた。
前後にさせた腿の合わせ目から、楚々としたアンダーヘアの翳りも覗かせる。
「有り合わせかぁ……う~ん、今夜は俺がご馳走するからさ、どこかへ食べに出ないか?」
「えっ! ホントに♪ うん、吾朗ちゃんの奢りなら喜んで♪」
涼花の顔が花開いたように綻んでいた。
望まないオナニーだったのに、気づけば身悶えするほどの絶頂に達して、挙句、気だるい午後を過ごす羽目になった彼女は、子供のような笑顔ではしゃいでいた。
「超特急でシャワーしてくるからね。吾朗ちゃん、心変わりはダメだからね」
ソワソワとして、けれどもちゃっかりと念押しをする声を残して、涼花の姿が消えた。
慌ただしくパタンと扉が開閉して、ものの数秒もしないうちに鼻歌が聞こえた。
暫くの間吾朗は、涼花のハミングに耳を傾けていた。
少々音程が外れていて、しかしとても幸せそうで。
彼の脳裏には、手のひらのスポンジで肌を清める涼花の姿が浮かんだ。
また、生まれたままの姿を晒し、人の目に決して触れさせてはならない性の慰めを、彼のためだけに披露してくれた涼花の姿も。
「ちょっと身勝手すぎたかな?」
吾朗は呟いていた。
「だけどな、な~んかシックリこないんだよな」
吾朗は床に散らばったままの原稿用紙に目を落としていた。
「やっぱり……始めたからには、完成させないとな」
吾朗はしゃがんでいた。
半分だけ埋まった升目の文字に軽く目を通すと、もう一度、心地よい涼花の鼻歌に鼓膜を向けた。
「……中華かな? 和食……寿司かな? いや、洋食……おい、フルコースなんて無理だからな」
そして吾朗は、首をブンブンと振った。
ポケットに入れてある折れ財布を取り出すと、小銭と同居するたった一枚の紙幣を大切そうに抜き取った。
シワを伸ばして、両端を丁重に摘まんで、澄まし顔で佇む女性作家に涙目の視線を送った。
第7話 二人の絶頂を糧に高見を目指す官能小説家 ここまで
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