軽トラックに乗った白馬の王子様 軽トラ少女編

もうセックスしたくないので旅に出ます

 第一話

 初年度登録から早30年のおんぼろ軽トラックで、僕は今日もひた走る。
 僕は逃げていた。
 一回寝たくらいで恋人気取りの後輩少女と、確かセフレとして割り切った関係だったはずの電波な少女の二人の性処理の相手を相手することに、もう限界だった。
 後輩少女は僕の家に押しかけてきて繁殖本能全開で襲いかかってくるし、そんな後輩少女をゴムを介して相手にした後、こってり早い朝四時頃に電波な少女からは呼び出しの連絡が来る。
 二人の都合の良い性処理の道具にされている気分になりながら一ヶ月、最後の方は、こいつら早く生理が始まってくれないかな、それとも本当に妊娠しちまえば少しは控えるようになるんじゃないかな、と思いながらの射精。
 確かに可愛い二人の少女だったけれど、早く終わんねぇかな、と神に祈るようになっていた。
 もう射精するのが苦痛だった。
 嬉しい悲鳴は本当に最初のうちだった。
 今はノーマルな悲鳴だった。

「旅に出ます」

 辞表を必要とするような職場でもないので、僕は社長に真顔でそう伝えた。
 野山が紅葉する今の時期、うちの職場は暇になる時期だったので社長は「いいよ」と、あまりにそっけなく了解してくれた。
 なので会社の経費で軽トラックにガソリンを満タンにする僕。
給油口ギリギリまで溢れるほどガソリンを突っ込んでやっている時に、社長から連絡が入った。

「さっきの話だが、あぁ勿論好きなところ行ってきてくれて構わんけどな、で、いつ頃帰ってくるつもりだ?」
「……それは……えと……」
「最近、なにやら少し疲れた顔をしていたようだから、思い切り羽を伸ばしてくればいいさ。だがな、仕事の都合ってもんもあるだからな――」
「……」
「旅に出ますと言った男に、いつ帰ってくるかなんて興醒めな質問だったな、悪い」
「そんなことありませんよ、社長。
 僕、また女を抱きたくなったら帰ってきます」

 ガソリンスタンドで給油ノズルを片手に僕は宣言した。

「……じゃあすぐ帰ってくるんだろうなぁ」
「……かもしれませんね」

 窓口で伝票にサインを記し、時計を確認した。
 着の身着のまま、気の向くままにのぶらり一人旅、それは平日の午前十時半ちょっと前に始まることになるのだった。
 軽トラックに乗り込もうとしてドアを開ける。

「やぁお前さん、あたしと旅に出ようなんて心意気、惚れ直しちまいそうだよ」

 いつの間に乗り込んだんだろう、軽トラックの助手席に一人の女の子が座っていた。
 ビックリするほど僕好みの可愛い女の子で、僕の大好きなナース服姿。
 唯一残念なのは、微妙に年齢を感じる口調くらいなもので……。

「お前は……?」
「いいからいいから、早く車を出しておくれ。
 あたしは今、妊娠するほどに大量に中出しされたばかりだからのぅ、少し腹ごなしをしたいのだ」

 僕は僕の旅立ちをあっさり認めてくれた社長を見習うように、けっこうあっさりとナースな女の子を助手席に乗せたままで旅に出たのだった。
 なんというか、僕にはもう少女の正体について見当が付いていた。

「お前の正体は「軽トラック」なんだろ?」
「おお流石だなっ、よく判ったな。
 あたしのこの姿を見て即座に正体を言い当てるとはのぅ」

 ワイルドなのか古風なのかイマイチ判然としない口調のまま、ナース服の軽トラック少女がニコニコ笑う。

「ほら見てみぃ、すれ違うトラック共があたしの姿を見て、目を丸くしとろぅな。
 なにも裸の女がいるわけでもないのに、あんなアホ面晒しおって」

 対向車のトラックがどんな表情を浮かべているのかはわからないが、軽トラックの助手席に座るナース嬢を見つけた人々はおしなべて怪訝そうな表情を浮かべていた。
 どうしてナース服なのか?
 そちらについても僕はおおよその見当は付いている。

「ところであたしの姿には満足してくれておるかのぅ?
 お前さんの好みに合わせて化けたつもりぞよ。
 運転中の独り言は全てあたしが聞いておった。あたしは誰よりもお前さんを理解している存在よ」

 もう白衣の天使と呼ばずしてなんと呼ぶかという驚天動地の可愛らしさなのに、残念女っぽい匂いがするんだよね。

「で、お前の目的はなんだ?」
「ふむ、先ほどお前さんが言っていたではないか?
 女を抱きたくなったら帰る、と。
 なんと英雄然とした宣告だったろうか。さすがあたしの惚れた男よ、天晴れじゃ。
 して、それはつまりあたしとの旅の終わりを意味するのだろう?
 今はこうして若いおなごの姿をしておるが、その本性はいつ朽ち果てるやも判らぬ鉄屑四輪よ」

 そう、この軽トラックは初年度登録から30年目の過走行車両。
 どうして廃車にしないのかと周囲からさんざん問い詰められるオンボロだった。
 軽トラック少女は儚げな生娘のように続ける。

「この旅はきっとあたしの最後の旅になるだろう。
 ならば一秒一時を楽しみたい。少しでも長く旅路を走りたい。
 お前さんが性欲に囚われれば終わってしまう旅ならば、あたしを都合の良い性処理の道具にすればいい。
 そうすればきっと、この旅は終わらぬのじゃろう?」

 少女らの性処理の道具にされる日々からの脱出の旅と知っての言い種だったろうか。
 どうせ近いうちに終わりのある旅と知っているのに、軽トラック少女は言葉遊びのようにそう言って微笑むのだ。
 つくづくこの子は口を開かなければ可愛いのになと僕は思った。





つづく

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