第三話
断言するけれど、天界とかなんとかってのは全く信じちゃいない。
それでも興味半分、面白半分に電波少女の話に乗っかって話を紡いでみせると、電波少女は電波少女で片脚半分は僕の話に乗ってくれる。
そしてもう片方の脚ではしっかりと自分の世界観を踏みしめている。
ただ単に現実逃避として妄想世界を広げているわけではないということだろう。
構って欲しがりのメンヘラ少女とは違い、電波少女は電波少女らしい誇りを持っている。
もしかすると時代が時代なら、電波少女は妄想世界を宗教として昇華し、多くの人心を掴んだかもしれない。
電波少女の立振舞、語り口調、容姿、雰囲気……それらは宗教家を想起させる説得力が宿っていた。
宗教とはマインドコントロールのようなものであるが、夏祭りの夜に浴衣少女の心を惑わした軽トラックのパッシングの光と、電波少女の瞳に宿る強い光とは、なにか通じるものがあるのかもしれない。
……たぶんな。
「私の計画をここまで見透かすとは、あなた、天界とは浅からぬ縁がおありなのですね?」
まるで面接官のような目つきと口調で電波少女は質問を寄越す。
電波少女の計画を見透かすも何も勝手に白状した計画だろうが、そこを敢えて指摘せずに話に乗っかり、浅からぬ天界との縁とやらを即興で披露してみせれば合格と見なされるだろう、電波設定の同好の士として。
「はっ、ははは、こりゃ傑作だ」
「……っ? 突然笑いだして……どうされました?」
電波設定同好会・入会試験の面接官様の顔色が曇った。
僕はさらに声を上げて笑い続ける。
昔の就職面接で受けた屈辱を晴らすように高らかに。
「天界との縁だって?
そんなもの、たったのこれっぽっちも有りはしないさ」
「なっ……!?」
「天界天界天界って、そんなに空ばかり見上げてるなんて、君、ちょっと頭がお花畑なんじゃないのか?」
そう言い放ってやると電波少女の目にうっすら涙が浮かんだ。
裏切られたと言わんばかりの表情は、子供が花を摘んで、それを花輪にして父親にプレゼントしたそばから、花輪を地面に叩きつけられて踏みにじられたかのよう。
そして僕はようやく軽トラの荷台から降り立ち、電波少女に歩み寄った。
フリルがたっぷりのドレス、髪飾りや首飾りの装飾品のそれぞれも子供のお小遣いで買えるような安物には見えない。
いい所のお嬢様が気を病んで深夜徘徊している風だったが、それ以上は不要な詮索と割り切って、僕は少女の肩に手を掛け、そして少女を軽トラの荷台へと押し倒した。
「きゃっ……!」
「天からの使者がいるのなら、地獄からの使者がいたって不思議じゃないだろう?」
「っ!?」
「もう解ったろう?
僕は地獄の悪魔の末裔なんだ。
君のように天を仰いでばかりいる馬鹿な天使を捕まえて、その身を母胎にして悪魔の子を宿らせてやるんだ」
「……悪魔の、子!?」
僕は電波少女を押さえつけたまま、ズボンと下着を下ろして勃起した男性器を露出させた。
そしてそれを電波少女に見せつける。
「ひっ……!!」
目を大きく見開いた電波少女の顔が恐怖に歪む。
これで仮性包茎だったら格好が付かなかったけれど、露茎の男子として生んでくれてありがとう、お母さん、お父さん。
今、ちょっとした理由であなたたちを悪魔と騙っているけれど、許してね。
そんな具合に内心で謝りつつ、僕は電波少女の反応を待つ。
先の試験官様と立場がまるっきり逆になり、今度は僕が電波少女を試していた。
明らかにレイプ寸前の状況なわけで、電波少女が我が身を優先して天界や地獄やらといった設定を投げ出してしまったならそれも良し。
言わんや、電波設定を堅持したいというのなら、僕は悪魔の末裔らしく振る舞わせてもらうつもりだ。
「………………」
「………………」
「な、なんて…大きな……禍々しい悪魔の刺股……。
いやっ! 私、悪魔の子なんて産みたくないっ!!」
絶体絶命のヒロイン風の悲鳴。
さすが電波少女だった。
電波少女編 第三話ここまで