第一話 女を寝取られた男と凄腕調教師の出会い

◆失意のどん底で旧友に再会

「田島さん、もうカンバンですから……」
「……あ、ああ……すみません」

 行き付けのスタンドバーでママに起こされた俺は、自分がぐでんぐでんに酔い潰れていたことに、なかなか気付かなかった。

「珍しいですね。何かおありになったんですか?」
「……まあね……」

 身長180センチ、体重100キロを超える巨漢の俺は、少々の酒で乱れることは、まずない。この店でこんな醜態を見せたのも初めてのことだ。だからママも心配してくれたのだが……

ーーヤケ酒を呷ってる場合じゃねえのに、何やってるんだ、俺……

 ズキズキと痛む頭で、改めて今日の出来事を思い返すと、目の前が真っ暗になる思いだった。職を失って、まずは明日からどう食い繋いでいけば良いのか算段が必要だ。確かに飲み屋で大酒を呷って酔い潰れてる場合ではないのだ。ママに今日の勘定を尋ねて、財布の中の持ち合わせでは間に合わなかったのでツケにしてもらったが、それを払うアテすらない。次の給料日が来ても、俺には何の支払いもない。クビになったのだから当然だ。それもただのクビではなく、俺が雇われていた高校の理事長の逆鱗に触れ、追い払われるように厄介箱になったのだ。退職金のような気の利いたお金もあるわけがない。正にお先真っ暗と言って良い状況だった。

ーー愛華さん……くそう! くそう!

 だが失職しただけならまだ良かった。俺にとってより深刻なダメージだったのは、恋人の女性まで失ってしまったことだ。そう、恋人だ。その女性、木村愛華さんは俺が体育教師として雇われていた山川女子高校の国語の教師だ。女性との付き合いの苦手な俺が、40歳を過ぎて初めて真剣に交際していたと言うのに。実際俺は、近い将来プロポーズしようと心に決めていたのだ。愛華さんも30台半ばで、恐らく受け入れてくれるに違いないと、俺は勝手ながら思い込んでいた。

 だが、俺のはかない夢は、今日はっきりとついえてしまった。それはもう完膚なきまで無残に。山川理事長の、最後の言葉が脳裏に浮かんだが、当分俺の頭から消えてくれることはないだろう。もしかしたら一生トラウマのように痕跡として残るのではなかろうか。

「……と言うわけで、君との契約は本日を持って打ち切りとする。全く見損なったよ、田島君。我々の前から一刻も早く姿を消し、二度と愛華に近寄らんでくれたまえ」

ーーうう……一体俺がどんな悪いことをしたと言うのだ? ただの平教師が、理事長の義理の妹と付き合うのは許されないことなのか? そんな、そんな……

 俺はその時、愛華さんとの交際を知って激怒する理事長に何も言い返すことが出来なかった。同席していて、いつものクールな眼鏡の下の無表情な美貌で俺を見ていた愛華さんの姉に当たる木村校長は、一体どんな目で俺を見ていたのだろう? 理不尽(と俺には思われた)な言いがかりを付ける、彼女の夫である山川理事長の権力におもねって、ただ一言の抵抗も口に出来ない虫けらのように情けない俺のことを、やはり妹の結婚相手にはふさわしくないと見切りをつけただけのことだったろうか?

 確かに俺は柔道しか取り柄のない役立たずな人間だ。小学校の頃から続けた柔道に打ち込み、国体で入賞するまで上り詰めた。だが、それは何の役にも立たない肩書きで、内向的で人付き合いが苦手な俺は、極度の口下手も災いして40歳まで定職にも就けず、親元で暮らして時々日雇いの肉体労働をやる程度だったボンクラだ。そこを柔道部の強化を狙った山川理事長に拾われ、体育教師として雇われたのだ。もちろん教員免状も持たず、経験もなかったが、この高校の権限一切を取り仕切っている理事長が、強権を発動して採用してくれたもので、俺が理事長に頭が上がらないのも当然だろう。

 だから今日突然、理事長の妻である校長と共に理事長室に呼び出され、愛華さんと真剣な交際をしていることを認めた途端理事長に激怒され、いきなり解雇処分を申し渡されたのは、天国から地獄に突き落とされたような悪夢の出来事だったのだ。

「タクシー呼びましょうか?」
「ああ……い、いや、今日はいい……」

 タクシー代すら持っていないのだ。俺は残酷な現実の前に、ますます胸ふさがれるような辛い思いを噛み締め、俺がいるために店をお開きに出来ないママに申し訳ない、と下らないことを考えていた。その時だった。俺1人しかいないと思っていた店内で、もう1人チビチビとグラスを傾けながら様子を伺っていた男が、声を掛けて来たのは。

「なあお前、信一じゃないのか?」

ーーえ!?



第一話 女を寝取られた男と凄腕調教師の出会い ここまで

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