猫又少女編 最終話 軽トラックの中の家族団らん

 目が覚めた時、僕は高速道路のサービスエリアに駐めておいた軽トラックの運転席に座っている状態だった。
 保険屋から携帯に連絡があり、それで目が覚めた。
なんだかよくわからないままに手慣れた保険屋の連絡に淡々と受け答えをしていると、なおさら狐に化かされたような気分になってくる。
 猫又少女を抱いた後、サービスエリアに戻ってきた記憶はまるでない。
 ただただ記憶に鮮明なのは猫又少女に中出しした精液の量の多さであって、僅かの一滴も残さず射精したという実感が今もなお身体に残っている。
 それは不思議な喪失感を伴っていた。
 猫又少女の姿はない、そんな夢を見ていただけのような気がする。
 キーを回しても、やっぱり軽トラックのエンジンは回らない。
 なにか世界に置き去りにされたかのような寂寥感と喪失感に囚われてしまい、僕はサービスエリア内をとぼとぼ歩いて回り、猫又少女を探し続けていた。
 まるで道に迷った迷子のようだったし、家出をしたものの行く当ての無い家出少年のようだったし、ともかくもやたら寂しい思いに駆られていた。
 猫又少女が語っていた寂しさとはこういう事なんだろうなと思いながら、僕はレッカー車が来るまでの間、ずっと彷徨っていた。

 軽トラックはやっぱり廃車にすることになった。
 整備工場でも故障の原因がわからなかったらしく、新しい軽トラックを探してもらうことにした。
 軽トラックは僕が免許を取った時に自腹で買った初めての車で、10年間乗り続け、今年で初年度登録から30年にもなるオンボロ車。
 名残は惜しいけれど、十分に大役をこなした軽トラックだった。

 さてさて、新しい軽トラックを乗り回すようになっての翌月、クレジットカードの利用明細書が届いた。
 前回は軽トラの車検費用、今回は軽トラの購入費用と続き、とんでもない利用額を恐る恐る確認するのだったが……なんだろうね、レッカー費用だとかが追加されているのはわかるんだけど、タクシー料金がドカンと加えられていた。

「なんだこれ……?」

 そう、それは猫又少女と共に飼い主宅を訪れる際に使ったタクシー料金だ。
 一体どこまでが現実でどこからが夢だったのだろうか?
 片道分のタクシー料金を眺めながら、僕は笑うしかないのだった。
 そんな翌日、出勤のために軽トラックに乗り込むと、助手席に猫がいた。
 真っ白な子猫で、ちょうど陽の当たる助手席の上で丸まって眠っていた。
しっかり施錠したはずの車内なのに、一体どうやって潜り込んだのだろうね。
 僕はなにやら予感めいたものを感じて、子猫のしている首輪を確かめた。
 首輪には「CACAO」と刺繍がなされているのだった。

「……カカオ? そういえばあいつの名前がそうだったような……?」

 猫又少女が「カカオ」という名前だと自己紹介していたのを思い出す。
 ついでに「ラグドール猫」だとも言っていたが……たぶんこの子猫は雑種だ。

「あ、お父さん、おはよう」

 そうしていると今度は猫又少女が颯爽と軽トラックに乗り込んで来やがった。
 助手席に座ると、子猫を膝に乗せて、なんだかしたり顔で微笑んでくる。

「久しぶり、お父さん」
「お前っ……どういうことなんだ?」
「うん、子供が産まれたの」
「いやいやいや、そうじゃなくて……」
「いいのいいの、そうことなの、最後まで話を聞いて、お父さん。
 あのね、この子は今、私の飼い主だったお家で飼われてるんだよ。
 名前は私の名前をそのままつけてもらってね、大事に可愛がってもらえてるんだよ。
 今日はお父さんに会わせてあげたくて誘拐してきたけどね」

 一体全体、僕はその子猫にとって父親なのだろうか、それとも祖父になるのだろうか?
 いろいろ問い糾したい気分だけれど、猫又少女がやっぱり制服姿のまま、幸せそうに微笑んでいるのだから、もうそれで良いような気がするのだ。

「あ、軽トラック新しくしたんだね。
 あのねお父さん、この子も、前の子と同じように大切にしてあげなきゃダメだからね、そうしないと前の子に恨まれるんだから」
「……わかったよ、大切にする」
「絶対だからね、約束だからね」

 僕は猫又少女と子猫を乗せたままで軽トラックを走らせた。
 なんだか一気に賑やかな家族が出来た気分だった。
 こんな馬鹿な話があって堪るかという気もするのだったが、こんな軽トラックの中の家族団欒があっても良いじゃ無いかという気もするのだ。
 まぁ、気分だけならなんとでもなる。
 僕は軽トラックに乗って新しい旅に出ている気分だった。

最終話 軽トラックの中の家族団らん ここまで

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